今年の夏は、いつもより暑い。
梅雨が明けたと思えば、いきなり強すぎる日差しが詰め寄ってきている。
苦しい。
そんな気がする。
今年も夏休みが始まったわけだが、夏休みが始まって数日、夜3時よりも前に寝た日は片手で数えても指が余るほどしかない。
みなさんには、眠れない夜を過ごした経験はあるだろうか。
私にはある。
幼いころからずっと、長期休みになるとなかなか寝付けなくなってしまうのだ。
これは「活動していなくて疲れていないから」という理由によるものだけではなく、その「あまり疲れていない肉体と脳」があるおかげで いろいろなことを考えられてしまうせいであることが多い。
脳が起きているとき。眠れないとき。
いつも、負の感情に包まれてしまう。
例えば、自分が過去にしてしまった失敗を何度も何度も思い返しては反省をしたり、人に言われた悪口を脳内で反芻させては悲しい気持ちになったりする。
いつもなら、疲れのせいでそんなことを考える暇もなく脳を強制的にシャットダウンできているのに、それができなくなる。
頭の中でずっと 嫌なことをぐるぐるぐるぐる走り回らせては、泣きそうになる。
気づけば、朝4時になっている。
昔、中学生のときに、夜遅くにだけ私と会っておはなしを聞いてくれる人がいた。
深夜1時にならないと彼には会えない。朝方6時ごろになると消えてしまう。
不思議なひとだった。
彼はいつも勉強の片手間にわたしとおはなしをしてくれた。
当時14歳の私は、クラスの女の子との人間関係に悩み、疲弊し、毎日そのことを考えては眠れない夜を過ごしていた。
ある夏の夜、いつものように勉強をする彼を眺めながら、
ふと「最近、うまく眠れないの。」とおはなしをしたことがある。
「どうして、眠れないの?」と彼は言う。
「あのね、友達にね、嫌なことを言われて……そのことをずっと考えちゃうの」
そう言う私に、彼はやわらかな笑顔を向ける。
「じゃあさ、キミにだけ特別に、【嫌な人や嫌なことへの対処法】を教えてあげる」
「【嫌な人や嫌なことへの対処法】……?」
「そう。10個あるんだ。よく聞いて。
まず、1つめ。嫌な人のことを考えている時間を無駄なものだと思う。
せっかく自分の脳が色々なことを考えられる状態にあるんだよ、もっと幸せなことを考えた方がいいと思わない?」
なるほど、と思った次の瞬間には口から
「確かに……。」と声が漏れていた。
「でもさ、どうしても忘れられないことってあるよね?そういうときはどうするの」
そう問う私に、彼は優しく微笑む。
まるで私を諭すかのように。
「そしたら、2つめを使うんだ。2つめはね、嫌な人や嫌な出来事に感謝すること。
その嫌な人に対して『あなたのおかげで、友達のありがたみがわかったよ!ありがとう!』って日々感謝する。そうすると、不思議と嫌な気持ちが消えていくよ。」
「オレもクラスにひとり気が合わないヤツがいてさあ、でも隣の席だから、忘れるわけにもいかない。だから、毎日そいつに感謝してるよ。」
私は、こんなに優しい人にも『嫌な人』がいて、それとうまく付き合っているんだ、という事実に驚いた。
ぽかんと口を開けているだけの私。
何も言えずにいる私の頭を、そっと彼の手が撫でた。
「だいじょうぶだよ」
この言葉に、救われた。
こころのなかが、温かくて、ふわふわとしたもので満たされていく気がした。
だんだんと眠くなってきて、まどろみの中にいる私に彼は
「おやすみ。
また、つぎの眠れない夜に 残りを話してあげる。」
そう言った気がする。
それから7年経った今でも、眠れない夜になるとこの日のことを思いだす。
ねえ、21歳になった私には、14歳のときとは比べものにならないほど多くの過去や失敗があるよ。
もうひとりで何度も何度も 眠れない夜 を過ごしてきたけれど、
そろそろ 残りを聞かせてもらえませんか